知られざる失業の実態 産経新聞 2002年 2月 14日 「正論」 |
保険金もらわない失業者雇用が悪化している。先頃、発表された労働力調査では失業率は5.6%となった。昨年十二月の数字だが、四ヶ月連続の悪化である。完全失業者数は三三七万人で前月より少ないが、これは季節変動の影響で、趨勢的には数も増大傾向である。 不良債権の処理など構造改革に伴う雇用への本格的な影響はこれからだから、失業は今後さらに大幅な増加が懸念される。 雇用問題が深刻化する中で、かねて雇用対策の強化、セーフティネットの充実が叫ばれている。政府も周知のように総理大臣を本部長とする産業構造改革・雇用対策本部を置いて、政府全体で雇用対策に取り組んできた。昨年秋に策定された補正予算は雇用対策中心の予算であり、ただちに実施に移されている。 雇用対策のために、貴重な予算を効率的、効果的に使うためには、とりわけ失業で苦しんでいる人々の実態を正確に把握しておく必要がある。ところが、現状ではここに意外な問題がある。 労働力調査で把握される最近の失業者数は三四○ないし三五○万人前後であるが、雇用保険金を受給している失業者は一一○万人程度に過ぎない。雇用保険金の受給者は雇用保険の業務統計で精密に把握されているが、保険金をもらっていない二百数十万人の失業者の詳しい実態は現状ではほとんどわからないのである。 重要なのは失業者数の中身過去十年間に、一年以上の長期失業者が三倍に増えた。世帯主の失業が百万人を超えた。一年以上失業している世帯主が二十六万人ほどいる、などの断片的な情報はある。これらの情報から、ひとくちに失業といっても、その内容はさまざまで、一部に特に深刻な失業が堆積しつつあるらしいことが推察されるが、詳しいことはわからない。 詳しいデータが無いなかで、敢えて推論をすれば、上記の二百数十万人の失業者には以下の四つのタイプがありそうである。1. 雇用保険に入っていない、いわゆるフリーターのような人々、2. 主婦など家族員で休職中だが仕事を探している人々、3. 引退前後の高齢者だが求職活動をしている人々、4. 雇用保険受給期間の切れた世帯主で仕事が見つからない人々。それぞれに困難を抱えているが、そのなかでも4. のタイプがかかえる問題はとくに深刻だ。 失業というと、5.6%、三百数十万人のマクロの数字だけが喧伝されるが、本当に重要なのはその中身であり、とくに数十万人ないし百万人程度と推察される第四の深刻な失業者には、雇用対策の手がキメ細かく集中的にさしのべられる必要がある。ところが、現状では、彼らがいつから雇用保険が切れ、どこでどのような生活をしているかがわからないのである。 法律・制度の制約超えた努力この問題を憂慮した小泉総理は統計整備を急ぐよう指示した。労働力調査は法律で定められた指定統計であるため、その調査項目の改訂には手続き上時間がかかるなどの問題があるが、総務省統計局は自体の重大性に鑑みて鋭意準備をすすめ、去る一月二十九日、片山大臣が「緊急調査」の実施を発表した。 この調査は、今年四、五月、十、十一月労働力調査に付帯する形で二回行われる。雇用保険の受給状況、所得や求職状況などの質問への回答を、通常の労働力調査の質問とクロスすることで、多様な失業者の実態を解明できる。 そうした詳しいデータにもとづいて、職業訓練の延長、雇用保険の拡充、緊急地域雇用特別交付金の活用など、国民の貴重な税金や雇用保険拠出金をつかっておこなわれるさまざまな雇用対策が、それらのサービスを本当に必要とする人々に対してキメ細かく集中的に提供されることが可能になるはずである。 本来は、こうした基本的な情報は毎月調査すべきだが、法律や制度上の制約を超えて急遽対応した今回の当局の努力は評価できる。しかしこの調査が実査に実現するまでには実はもう一つのハードルがある。それは、こうした調査の実施について各都道府県の了解と協力を得なければならないということである。地方分権基本法のもとで一昨年から、こうした行政事務の多くは自治体の判断に委ねられることになっており、中央政府の決定も自治体の理解と協力なしには実行できないしくみになっているからだ。 雇用対策の充実というのはたやすいが、働く仲間を救うため政策関係者には統計や法律、制度などの制約を超える理解と努力が特に求められるように思う。 |