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資産価値減らない住宅政策進めよ

産経新聞 2001年 4月 28日 「正論」




直接的で切実な将来不安

日本経済は深刻な低迷をつづけている。金融や財政などのマクロ経済政策の余地も極めて乏しく、景気回復の手がかりも見えない。事実上のゼロ金利で至近供給の量的拡大の効果も限られているし、また財政支出を増やそうとしても財政赤字累積の逆効果が心配だ。しかし、日本経済の低迷の根はもっと深い。

それはなぜ消費がこれほど低迷しているかと言うことである。多くの論者は、人々は将来不安で消費を手控えていると説明する。将来不安の理由として引き合いに出されるのが、財政赤字の累積、そこから来る増税の心配、そして財源難に陥っている社会保障給付の削減である。

これらはマクロ経済の長期展望としてはたしかに大きな不安要素だが、多くの消費者や生活者は果たして本当にこれらが心配で消費を手控えているのだろうか。たとえば、将来、社会保障給付が大きく削減されることになる若年層が所得以上の消費をしているのに、ほとんど削減されない高齢者が消費を手控えて貯蓄を積み増している事実はどう説明されるのか。

人々の生活上の将来不安は、こうした抽象的なものではなく、実はもっと直接的で切実なところにある。そのひとつが住宅問題だ。




唯一最大の財産失う怖さ

高齢者が将来に大きな不安を抱いて貯蓄を殖やしている大きな原因は住宅問題だ。高齢化が進むと多くの人々には家を移る必要が出てくる。例えば、子供が巣立って夫婦二人だけになり、やがて配偶者が亡くなって、これまでの大きな家はかえって不便になる。また、脳梗塞を罹病して立ち直った人にはリハビリしやすい家が必要だ。さらにより高齢になるとボケ症状が出てきて専門の施設に入る必要が生ずる。

このように高齢化社会では、これまでの社会とは違って、高齢者が必要に迫られて家を替わらなければならない状況が一般化する。高齢化が急速に進む日本の社会では、直接間接にこうした事態に遭遇する経験が増えている。そこで人々が直面するのは、家を売ろうとしても売れない、あるいは、土地はともかく建物は評価されないという現実である。

さらに中古の家は更地にするために解体費用がかかるのでマイナス評価をされることが少なくない。こうして家を替わらなければならない高齢者はこれまでに蓄積してきた唯一最大の財産を一瞬にして失う羽目になる。それが怖くて人々は別の家に移りたくとも動けずに、いたずらに貯蓄を蓄積することになる。

欧米の先進国では、家は通常取得価格に近い値段で売れるのが当たり前で、また良くメンテナンスされた家はそれ以上の値段で売れることが珍しくない。金融資産の貯蓄は少なくても資産を家で保有する方が使用価値が高いのだ。




役割を終えた持ち家政策

これに対し、なぜ日本だけ地獄のような事態になっているのだろうか。それは敗戦後の復興期に推進された持ち家政策が歴史的役割を終えてからも硬直的に維持されたことが大きな原因だ。高度成長の結果人々は皆マイホームをもてるようになったが、その時点で、住宅政策は持ち家中心から社会資本へと変更されるべきだった。それに合わせて税制も公庫も公団も土地政策も改革されるべきだった。

必要な変革をせずに四半世紀を無為に過ごした結果、今日では、四四○○万家計に対し五○二○万戸の過剰供給があるにも拘わらず、中古の家は流通せず人々は資産を失う恐怖のまえに立ちすくんでいるのである。

人々が老後の幸せのために貯蓄を安心して使える社会をつくるため住宅に関して以下のような戦略を提案したい。

第一に、税制を、持ち家優遇から売買優遇に変え、住宅の社会資本化をすすめる。取引関連税と譲渡所得税を下げ、むしろ相続税を引き上げる。

第二に、住宅の工法や資材、部品の標準化を徹底。

第三に、政府主導で中古住宅の評価基準をさだめ、評価データをネット上に蓄積し開放する。

第四に、耐久性の高い住宅を開発し、とくにSI住宅などを普及させ、スケルトン、インフィルと土地の各々の市場を整備する。

第五に、住宅はやがて売る時の価値を考えて購入し保全する考え方を普及する。

第六に、賃貸住宅を普及。

こうした施策によって、住宅資産の社会資本かが進めば、高齢社会の大きな不安のひとつが解消し、豊かで安心した生活と日本経済の再活性化が同時に実現するはずだ。